2009-11-14

キー・ラーゴ Key Largo

ジョン・ヒューストンJohn Huston監督「キーラーゴKey Largo」(1948年)を観た。マクスウェル・アンダーソンの同名原作戯曲から脚色した作品。ハンフリー・ボガートHumphrey Bogart、ローレン・バコールLauren Bacall、エドワード・G・ロビンソンEdward G. Robinson出演。


なんと言っても陰影のあるボガートの魅力に尽きる。映画の公開が1948年である。第二次世界大戦が終わって3年しか経ていない。戦争で勝利したものの人びとの心の傷はまだ癒えていない。ボガートは戦争が終わり生きる目的を失った元兵士の虚無を背負っている。世間の戦争における英雄への賛美や畏敬も彼にとっては素直には受取れない。一方、戦死した兵士の遺族の悲しみも存在する。戦勝の気分の裏に隠れた戦場で共に戦って生き残ったものや戦死者の遺族の悲しみと心の傷。その魂の回復がこの映画の主題である。そんな彼らと対照的なのが、私利私欲のために人を殺すことを何とも思っていない悪党たちである。彼らを最後は打ち負かし、未来を生きる意味を見出す元兵士。そしてその彼に救われ共に生きる希望を得る戦争未亡人。戦後娯楽映画の典型的な型がここにあるのではないだろうか。黒澤明監督の「酔いどれ天使」(1948年)や「野良犬」(1949年)を思い出す。陰影に富んだ大人の魅力のボガードとエネルギッシュで直情的な青年を演じた三船、この対照も面白い。

第2次大戦の復員将校フランク・マクラウド(ハンフリー・ボガート)が、フロリダ半島の南の小島キー・ラーゴに、イタリア戦線で失った部下の父、その島でホテルを経営しているテンプル老人(ライオネル・バリモア)と部下の未亡人ノーラ(ローレン・バコール)を訪ねる。部下の戦死の様子を話し家族に悔やみを言うためである。ところがそのホテルには、ギャングの頭目ジョニイ・ロコ(エドワード・G・ロビンスン)の一味が秘密の取引のために滞在していた。折りしも、大型のハリケーンがキーラーゴを襲う。ロッコがハリケーンを怖がっている様子に口ほどにもないと皆に蔑まれる滑稽も映画の薬味。その間のホテル内での殺人などの緊迫した場面がつづき、最後にジョニイ・ロコ一味がフランク・マクラウドの運転するボートでキューバへ逃走しようとするが、フランクの活躍で一味は皆殺しになるという筋書き。引き上げる船を操縦するボガートの満足げな、ちょっと大げさなのではと思えるぐらいのあからさまな笑顔が印象的。

主題とは関係ないが、フィルムの保存状態が素晴らしいのには、いつもながら感心させられる。文化としての映画への尊敬があるのではないかと思ったりする。単なる物量の話ではない。小津監督や溝口監督、山中監督など日本の映画監督の貴重な作品の多くが失われ、保存状態も良くない日本の現状を考えるとまことに羨望の念を禁じえない。

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