今、小松和彦著「百鬼夜行絵巻の謎」を読んでいる。こんなにたくさんの「百鬼夜行(やぎょう)絵巻」が存在するとは知らなかった。六十数巻。その系統を探る謎解きのドラマが展開する趣向。妖怪好きにはたまらないのは、「ヴィジュアル版」というだけあってすべてカラー図版で主要な「絵巻」が掲載されていることである。さらにその比較から分類まで。
昔、宮田登著「妖怪の民俗学」を読んで感動したことを思いだした。何に感動したかは忘れてしまったが、強い印象が今でも残ってる。当然水木しげるの世界には目がない。
迂闊だったが、国際日本文化研究センターでは、膨大な絵巻などの史料がデータベース化されている。ウェブで検索できるのはありがたい。謎解きのキーになった日文研所蔵の「百鬼ノ図」も鮮明な画像で見ることが出来る。これからの楽しみが増えた気がする。
ともあれ、日本人は昔っから妖怪好きであったことがよく分かる。室町時代の「百鬼夜行絵巻」から宮崎駿のアニメ「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」まで。加藤周一と高畑勲の対談が思い出される。「もののけ姫」では中世から近世へ移行する時代の日本人や日本社会の変化の重大な意味が描かれていた。乱暴に言ってしまうと、人知を超えた「百鬼夜行」の世界から理解と利用可能な「自然科学」の世界へ。自然に対する日本人の世界観の大転換の時代。信長の自然を恐れぬ破壊的なまでの合理的精神を見よ。
しかし、すべてが変ったわけでもない。われわれのこころの中には「百鬼夜行」の名残がちゃんとある。文化の持続性と重層性いうこと。そういえば先頃「座敷童」で有名な遠野の旅館が焼けてしまった。残念なことである。
百鬼夜行絵巻の謎集英社新書ヴィジュアル版