小沢一郎が『平成の悪党』になる日
佐藤優の眼光紙背(第74回):小沢一郎が『平成の悪党』になる日より
(中略)現下の日本には、目に見えない2つの国家が存在する。一つは、昨2009年8月30日の衆議院議員選挙(総選挙)で、国民の多数派によって支持された民主党連立政権の長によって国民を代表する国家が存在する。もう一つは、官僚によって代表される国家だ。
内閣総理大臣の職に就いている鳩山由紀夫という1人の人間に、国民の代表という要素と官僚の長という要素が「区別されつつも分離されずに」混在している。官僚と国民の利害相反が起きるときに、総理のアイデンティティー(自己同一性)の危機が生じる。
官僚は、国民を無知蒙昧な有象無象と考えている。有象無象によって選ばれた国会議員は無知蒙昧のエキスのようなものと官僚は見下している。そして、国家公務員試験や司法試験に合格した偏差値秀才型のエリートが国家を支配すべきだと自惚れている。自民党政権時代は、「名目的権力は国会議員、実質的権力は官僚」という実質的な棲み分けができていたのを、民主党連立政権は本気になって破壊し、政治主導を実現しようとしていると官僚は深刻な危機意識を抱いている。この危機意識は、実際は官僚が権力を大幅に削減されることに対する異議申し立てに過ぎないのであるが、官僚の主観的世界では「このような輩が国家を支配するようになると日本が崩壊する」という「国家の危機」という集合的無意識になっている。
官僚は、現在、2つの戦線を開いている。第1戦線は、検察庁による小沢一郎潰しだ。第2戦線は外務官僚と防衛官僚による普天間問題の強行着陸だ。特に外務官僚は、「アメリカの圧力」を巧みに演出しつつ、自民党政権時代に官僚が定めた辺野古案が最良であることを鳩山総理が認めないならば、政権を潰すという勝負を賭けた。鳩山総理は、現状の力のバランスでは、官僚勢力に譲歩するしかないと判断し、辺野古案に回帰した。鳩山総理の認識では、これは暫定的回答で、段階的に沖縄の負担を軽減し、将来的な沖縄県外もしくは日本国外への模索を実現しようとしているのであろう。しかし、この状況を官僚は「国家の主導権を官僚に取り戻した象徴的事案」と受けとめている。
しかし、この象徴的事案は、官僚勢力に対する敗北になり、民主党連立政権が政治生命を喪失する地獄への道を整える危険をはらんでいる。筆者は、小沢幹事長がそのような認識をもっているのではないかと推定している。
小沢幹事長が「鳩山総理が平成の新田義貞になった」という認識をもつならば、自らが悪党になり、政局をつくりだそうとする。小沢氏が直接政権を握ろうとするか、自らの影響下にある政治家を総理に据えようとするかは本質的問題ではない。小沢一郎氏が「平成の悪党」になるという決意を固めることが重要だ。小沢氏が「平成の悪党」になる決意を固めれば、官僚に対する決戦が始まる。参議院選挙はその露払いに過ぎない。今後、天下が大いに乱れる。
面白い、大いに乱れてもらいたい。混乱の中で敵味方が明瞭にあぶり出されるであろう。現状維持の官僚ファシズム側につくのか、日本の民主主義の未来を切り開くために彼らに対抗するのか。そのことが重要だ。