2010-01-19

ヨーロッパ映画の底力

このところ印象的な映画を何本か観た。スサンネ・ビアSusanne Bier(1960年生)というデンマークの女性監督。「しあわせな孤独」(2002)、「ある愛の風景」(2004)、「アフター・ウェディング」(2006)、「悲しみが乾くまで」(2007)の4本。それから、英国のマイケル・ウィンターボトムMichael Winterbottom(1961年生)監督「ひかりのまちWonderland」(1999)。











ビア監督の映画に共通するテーマは、「死」や「喪失」である。近親者の突然の死や自分自身の「死」あるいは事故による身体機能の喪失をどのように受け止めていくか、という重いテーマ。心理学的には「悲嘆の心理学」という分野だが、この監督の人間に対する認識がとても深いことに驚く。またそのテーマに対する距離感、すなはち、登場人物との距離の取り方がすばらしい。だから細部の積み重ねに強い説得力がある。科学者のような冷厳な観察者であると同時に人間の弱さや強さを包み込む包容力を持ち合わせているのである。だからテーマにもかかわらず決して絶望的な映画ではない。静かな「希望」がある。キリスト教的ユマニスムの伝統の厚みだろうか。この監督の映画に比べるとわが邦の「おくりびと」が薄っぺらでチャチに見えてしまうのは如何ともし難い。



「ひかりのまち」も傑作。テーマは家族という形式の崩壊に伴なう、どうしようもない「孤独」とそれでも家族あるいは人と人との絆をなんとか保持または獲得しようと抗う人びと。映画では最後に一縷の「希望」が残されるが、崩壊寸前の「絆」はかろうじて持ちこたえられているという状況にかわりはない。むしろ必然的に近い将来崩壊するであろうことが予感させられる。英国社会の現状がよくわかる。ふと小津監督の「東京物語」が頭をよぎる。暗闇と「街の光」や「花火」の明るさとの対照が鮮烈な印象を与える。それとマイケル・ナイマンの音楽がなんともすばらしい。


Michael Nyman - Molly - Wonderland