2010-04-13

東京だョおっ母さん

島倉千代子で思い出されるのが、伊丹十三監督のビュー作、傑作映画「お葬式」の一場面。父親、真吉の通夜の夜、通夜の喧騒が去って初めてしみじみと肉親の死に対面する大事なシーン。娘の千鶴子(宮本信子)が母親(菅井きん)と従兄弟の茂(尾藤イサオ)とが島倉千代子の「東京だョおっ母さん」を歌う。1957年発売。島倉千代子、19歳!因みに、デビューが17歳。発売当時の音源で聴いている。高度経済成長以前、まだ戦争の記憶が残っていた時代。

茂:お疲れさま
3人が杯で酒を飲む。
茂:ほんとに伯父ちゃんちゅうのは自分のことしか考えやせんでね。わしゃ、顔も見とうないわ。金は持っとるけど、ひとの気持ちの分からん人だでねぇ。わしゃあ、大っ嫌いじゃ。あんたの父ちゃんもあの伯父さん嫌いだった。んなもんだで、この5,6年は全然三河にも寄り付かんかったでしょう・・・ほいじゃあ、真吉っつぁんの顔でも見せてもらおうかな
茂、棺の蓋をあけて、真吉の死に顔を見る
茂:真吉っつぁん
と、茂、啜り泣く。ここで初めて千鶴子と母親、泣く
茂:ほんなら、寝よか
千鶴子:ゴロ寝でいいわね
茂:ああ、なんでもええ、ええ
千鶴子:でも、もう一杯飲もうか。なんかしんみりしちゃったじゃないの。こいうの父さん嫌いよ
母親:通夜は賑やかにやってくれと言っとったでね
千鶴子:歌でも歌いましょうよ。お父さんが好きだった歌
茂:島倉千代子!
千鶴子:そう、東京だョおっ母さん
茂:あれは千鶴ちゃん、旅行会で宮津へ行ったとき、お父さんが半日がかりで芸者から習っとたがや
千鶴子:お母さん、歌おう
(歌う)久しぶりに手を引いて 親子で歩けるうれしさに
小さいころが浮かんできますよ おっかさん
ここが ここが 二重橋 記念の写真を撮りましようね
千鶴子:おっ母さん、あれが二重橋よ。ちゃらら、ちゃらら、うちゃちゃちゃ、ちゃらら、ちゃらら、うんちゃちゃちゃ



カメラが、二階から一階へ移動。スタンドの光の中に、侘助(山崎努)の姿がある。
侘助:女房たちが歌っている頃、私はまだ起きていた。まだVTRで明日の挨拶の研究に余念がなかったのである



東京だョおっ母さん
作詞 野村俊夫
作曲 船村徹

久しぶりに手を引いて 親子で歩けるうれしさに
小さい頃が浮かんで来ますよ おっ母さん
ここが ここが 二重橋 記念の写真をとりましようね

やさしかった兄さんが 田舎の話を聞きたいと
桜の下でさぞかし待つだろう おっ母さん
あれが あれが九段坂 逢ったら泣くでしょ兄さんも

さあさ着いた着きました 達者で永生きするように
お参りしましよう 観音様ですおっ母さん
ここが ここが浅草よ お祭りみたいに賑やかね